2018年11月「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の公表から約3年が経ちました。
デジタルシフトを後押しする社会情勢もあり、金融業のみならず幅広い業種の事業者にeKYCの導入が進んでいます。
世の中のあらゆるサービスがオンラインで提供される現代において、eKYCは必要不可欠のサービスと言っても過言ではないのではないでしょうか。
当記事では、eKYCの導入を検討している方に向けて「eKYCとは何か」基本的な概要を解説します。
「eKYC」とは?
eKYC(electronic Know Your Customer)とは端的に言うと「オンラインで完結する本人確認方法」のことです。
正確に言うと「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則で定義する特定事業者に課せられた義務の1つ「取引時確認」の確認項目の1つ「本人特定事項」の確認を電子的に行う方法」となります。
広義の意味でオンラインで本人を確認することを総称しeKYCと呼称するケースも見かけますが、ここでは上記の定義におけるeKYCに関して解説します。
eKYCに注目が集まったきっかけは、2018 年 11 月の「犯収法施行規則の一部改正」の公表でした。
従来から非対面での取引時確認は郵送物を用いる方法がありましたが、オンラインで完結することができませんでした。
顧客側には煩わしい郵送手続きが発生し、事業者側には煩雑な業務や郵送コストが発生する等の課題がありました。
さらに、2020年4月1日の「犯収法施行規則の一部改正」の施行に伴い、非対面取引時の郵便により行う本人確認は厳格化されました。(本来は写真付き身分証明書の写しの受領が1点必要であったのに対し2点が必要となりました)
一方で、eKYCはスマートフォンと写真付き身分証明書1点があれば、いつでもどこでも顧客が手続きを完了することが可能です。
顧客にとっては利便性の向上、事業者にとっては離脱防止や運用コストの圧縮、業務効率化、AML/CFT強化が期待できる等のメリットがあるのです。
特定事業者とは?
特定事業者とは、犯収法で定義(犯罪による収益の移転防止に関する法律 第二条2)されている以下の事業者を指します。
◉ 金融業者
- 銀行
- 保険会社
- 金融商品取引業者
- 証券金融会社
- 不動産特定共同事業者
- 貸金業者
- 資金移動業者
- 暗号資産交換業者
- その他
◉ 非金融業者
- 宅地建物取引業者
- 貴金属等取引業者
- 郵便物受取・電話受付代行業者 / 電話転送サービス事業者 等
- 弁護士・司法書士・行政書士・公認会計士・監査法人、税理士等
- その他
特定事業者にはマネロン対策(AML)やテロ資金供与対策(CFT)を目的とした義務が課せられますが、その中の1つが取引時確認です。
取引時確認とは、特定取引時に課せられる義務で、顧客が自然人の場合、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)、取引を行う目的、職業を確認する必要があります。
取引時確認における「本人特定事項の確認」をオンライン完結で実施する仕組みがeKYCです。
eKYCの種類
本人特定事項の確認方法は、犯罪による収益の移転防止に関する法律 施行規則6条第1項に定められており、個人(自然人)に対する本人確認の方法だけでも17種類に分類されます。
さらにオンラインで完結可能な本人確認方法は以下となります。
- 【1号ホ】 「写真付き本人確認書類の画像」+「容貌の画像」を用いた方法
- 【1号ヘ】 「写真付き本人確認書類のICチップ情報」+「容貌の画像」を用いた方法
- 【1号ト (1)】 「本人確認書類の画像又はICチップ情報」+「銀行等への顧客情報の照会」を用いた方法
- 【1号ト (2)】 「本人確認書類の画像又はICチップ情報」+「顧客名義口座への振込み」を用いた方法
- 【1号ワ】 「公的個人認証サービスの署名用電子証明書」を用いた方法
- 【1号ヲ・カ】「民間事業者発行の電子証明書」を用いた方法
現在の導入事業者の事例を見ていくと、最もポピュラーなのは「ホ」です。
また、最近ではICチップ読取を行う「へ」を導入している事業者も増えてきています。
ここでは「ホ 」と「へ」に関して具体的な手続きのフローをご紹介します。
【ホ】「写真付き本人確認書類の画像」+「容貌の画像」を用いた方法
本人確認書類の顔画像(写真付き身分証明書をスマホのカメラ機能で撮影)と顧客の容貌(スマホのカメラ機能で撮影)を照合し、顔写真の同一性の確認を行います。
また、ライブネスチェックにより生身の人間が操作しているかを確認し、その容貌とセルフィーの容貌を照合し、顔写真の同日性の確認を行います。
さらに、身分証明書の厚みを目検チェックし、身分証明書の真正性の確認を行います。
【ヘ】「写真付き本人確認書類のICチップ情報」+「容貌の画像」を用いた方法


ホと比較し身分証明書の真正性の確認の精度が高いスキームです。
現在は「ホ」のみ対応している事業者が多いですが、今後は「へ」に対応する事業者が増えると予測しています。
本人確認書類の顔画像(ICチップ読取)と顧客の容貌(スマホのカメラ機能で撮影)を照合し、顔写真の同一性の確認を行います。
また、ライブネスチェックにより生身の人間が操作しているかを確認し、その容貌とセルフィーの容貌を照合し、顔写真の同一性の確認を行います。